「笑いと甘酸っぱさを観客に」立芸「ぼくらのいもうと」演出インタビュー-立命館三大劇団夏公演特集⑤

7月10日~12日の3日間、学生会館小ホールにて劇団立命芸術劇場夏公演『ぼくらのいもうと』が上演されました。
今回立芸が挑んだのはシチュエーションコメディ。マンションの2部屋を舞台にした、それぞれの物語が独自に、しかし絡みながら進んでいく同時並行式の舞台です。脚本は中野守(中野劇団)さん。あらすじは以下の通りです。

あらすじ
匿名の作者がインターネットの掲示板に公開し、反響を呼んだ小説『天空』。そのファンによるオフ会が行われる傍ら、同じマンションに住む安堂寺杏奈の部屋に、突然部下の昆陽誠一が現れる。人を待っている杏奈は昆陽を帰そうとするが、全く帰る気のない昆陽。しかも昆陽はオフ会の様子を盗撮している。『天空』と昆陽の関係とは、そして『天空』に出てくる登場人物のモデルとは誰なのか。『天空』にまつわる謎解きと個性的な面々が繰り広げるドタバタ喜劇。

今回はマンションの2部屋が舞台。舞台上に下手側がオフ会、上手側が杏奈の部屋が置かれました。それぞれ同時に物語が進んでいき、照明も片方がメインの時は、もう片方を消すという演出がとられていました。また、シチュエーションコメディの謳い文句を外さず、場内はずっと笑いに満ちていました。
今回演出を担当した諸岡航平さんに話を伺いました!

公演お疲れ様でした
ありがとうございます
今回の公演で、一番大変だったことはなんですか?
今公演は役者が10人いて、ステージ上に出っぱなしの状態で進むお話で、メインの人が喋っている反対側でサイレントで動きを表現しているのを稽古中ずっと見続けなきゃいけないっていうのが、大変でしたね…(笑)メインを見つつ、サイレント側ではこういう動きをしてほしくないとか、次に喋り出すまでの話題の移動をちゃんとやらなきゃいけないのもあったのでしんどかったですね。
役作りはどのようにしたのですか?
これは立芸では毎公演やってることなのですが、それぞれの役者が自分のキャラの設定を、年齢とか職業とか出身地とかそれまでの生い立ちとかそういうものを全部組み立てて一回役者と演出全員で話す機会が設けられるんですよ。例えばパフパフは長崎のケーブルテレビのスタッフっていうことで、鉄道おたくでありアニメおたくであるみたいな、パソコンは家に3台あって、デスクトップのPCのモニターは2つあるとかそういう細かい設定まで(笑)。こういう設定のやつならこの時どう動くか、っていうのを考えて動いてもらったりとかしました。
キャスティングはどのようにされたのですか?
今回のキャスティングは、その役の雰囲気とその人があっているのかを一番見ていたんですけど、例えば悦子先生…家庭教師の元生徒会長とかは元々あんな感じ(悦子は基本優しい物言いのキャラクター)で、(彼女に)冷たく喋らせるシーンがあるんですけど、冷たく喋らせるのに苦労しました。
今回の舞台セットはどういった拘りを持って作られたんですか?
今回はやっぱりマンションの一室。隣の部屋ってことだったので、どうやって部屋と部屋を区切るか。最初は普通の半分くらいの大きさの壁が仕切るはずだったんですけど、そうなった場合、こっちの動きとか、クローゼットの中から布団とかまき散らして隠れるシーンが良く見えないってなって。なので、わざとアーチを置いて、服をかけて、タンスとかを背中合わせで配置することによって、なんとか表現できたって感じですね。
コメディを作るのは難しくなかったですか?
そうですね…。脚本にある程度「ここのやりとりがあるからあのやりとりが面白い」ってあるじゃないですか。笑いって言う、一番わかりやすい目標があるんで、僕的にはやりやすかったですね。一番最後の、昆陽が杏奈に話しかけて、「今までの自分は黒板のおかげで救われたんです」っていうあそこら辺の二人の静かなやりとりを表現する方がしんどかったですね。
あのシーンで力を入れたのはどんな部分ですか?
やっぱりそれまでのテンポがいい分、そこで急激にゆっくりになるっていうのが難しいのと、気まずい二人の中でも、杏奈の心境と昆陽の心境は違うものがあって、そこをどうやって、声のトーン、視線のやり方、体の向きで表現していくのかっていうのをすごい考えたところではありましたね…。
昆陽と杏奈が二人でやり取りしているときは、実は杏奈は体を一切昆陽の方に向けてないんですよ。逆に、昆陽は杏奈の方しか見てないです。これは、過去の屋上では、昆陽は杏奈の姿をちゃんと見れなかったけれど、今はちゃんと捉えに行ってるっていう意味で...逆に杏奈は、昔は見ていたけど、今は負い目があって見れないみたいな。ただ、杏奈が叫ぶシーンがあるじゃないですか、「それは好きだからでしょうが!」って。そこで二人がちゃんと向き合えるっていう…あの(笑)これが個人的に、すごい「そういう風にして」って役者さんにお願いしたところではありましたね。
あそこは、照明さんにもドラマチックにしてくれ、って言ったところで、オフ会側が喋ってるとき、杏奈側が暗いって演出やったじゃないですか。あれの時は、オフ会側が暗いときも外の灯りはついていたんですけど、ラストシーンはスポットライト以外の照明をほとんど落としてもらって、5分かけて杏奈側の二人のやりとりに夕日を差し込ませていくっていう。昆陽の夕日の影と、杏奈の夕日の影があって、「女の子」って言って、オレンジ色に段々なっていく、みたいな。僕が個人的に、夕日の色みたいなのとか時間経過とかをすごい照明さんにわがままを言って、「4月の頭頃の5時半くらいの色にしてくれ!」って(笑)
今回の公演で諸岡さんが目標にしていたものはなんですか?
観た人が最後笑顔で出られる作品、笑顔で会場を出てもらうってことを意識しました。まぁすごいハッピーエンドじゃないですか!ご都合主義もご都合主義なんですよ、脚本自体。ただ、「お芝居の中でくらい、やっぱり皆幸せにならななぁ」って思って。皆には楽しげに演じてもらうっていうのと、結局やってることは高校生の恋愛で、そこら辺で甘酸っぱさみたいなものを。見ててこっちがこっ恥ずかしくなってくるようなものを、やってくれみたいな。杏奈の最後の「女の子」(という台詞)もどんどんステージを経るごとに可愛くなっていって…(笑)
「はにかみの中の笑顔をもっと強くしてくれ」とか。すごい微調整に微調整を重ねて(苦笑)膝をこの角度で曲げて、とか(笑)。個人的に、杏奈にはあんまり女の子っぽさっていうは出させないように、芯が強い、気が強い子って感じでやってもらって、最後に二人が両思いやったことが発覚して、そこで、ちょっと女の子っぽさを出してほしいなっていう(笑)。あそこをかわいらしくしてほしいって言うのはずっと言ってましたね。
最後に、お客さんや、この記事の読者に一言お願いします
初めての演出と言うことで、つたない所もあったんですけど、役者・スタッフ、そして見に来てくださった方々のおかげで、公演を無事終わらせることができました。なので本当に、来てくださったお客さん、応援してくださった方々には感謝しております。これから一回生が入って、立芸がまたどんどん違う側面を見せていくと思うので、それを楽しみに演劇祭や秋公演に来てくださったら幸いです。

次回の劇団立命芸術劇場の公演は、8月30日~9月5日に開催される京都学生演劇祭2014になります。興味を持った方、演劇が好きな方は是非足を運んでみてください。

文:矢澤達也

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