特集 劇団立命芸術劇場『約三十の嘘』ー「具象舞台とリアルな会話劇」-

4月28日、29日、30日の3日間、学生会館小ホールにて、劇団立命芸術劇場(立芸)の新歓公演が行われました。演目は、立芸のOBである劇作家・土田英生さん脚本の『約三十の嘘』。5年前にある事件で解散した詐欺師のグループが再び集まり、北海道まで詐欺に向かう間の、列車の中での物語です。小ホールの舞台上には、寝台車の一部屋を再現した舞台が置かれました。ベッドやいすなどの小道具から、ドアまでも再現した「具象舞台」です。120分近くに及ぶ劇でしたが、魅力ある演技で観客を沸かせていました。

立芸 約三十の嘘

今公演について、演出を担当した酒泉郁さんにインタビューをしました!

今公演の制作期間はどれくらいですか?
レパ選(脚本選考会)を3月10日に行いまして、そこで脚本と演出の担当を決めてスタッフや役者希望もそこで希望を聞いて翌日からスタートしました。
今回の舞台を作る上で力を入れたことは何ですか?
立芸の舞台の強みは、具象舞台です。具象舞台は実際の部屋などの現実世界を忠実に再現する舞台のことで、立芸のモットーでもあります。今回の『約三十の嘘』は列車が舞台で、寝台列車の車内はどういう風にできているのか、カーペットは何色なのか、ソファはいったいどういうものなのかを調べたうえで、作っていくことにしました。
『約三十の嘘』は、プロの土田さんの脚本ですが、プロのやる舞台を参考にしたりはしましたか?
基本的に僕の演出の方針なんですけど、実際の映像などは見ないでやりました。
ブラインドを開けるとか、窓の外に人がいるとかの行動は、脚本に書いてある台詞から拾って、あのような配置にしたということですか?
はい。ト書きとかを全部調べて、役者と話し合って、どのように動けばこうなるのかを稽古で決めてました。脚本上での指定もあるときもあるんですけど、どこに座るかって記述はあっても、それまでどこにいたのかってところはなくて…。
そこは演出でカバーしたんですか?
はい。日常の仕草とかリアルに再現するかってのも立芸の特色なので、そこは厳しくいきました。
今回大変だったことはなんですか?
先輩の方々が卒団されていって、新2,3回生での初めての公演だったので、人手も少ないし、新しい立芸の体制と言えば聞こえはいいんですけど、やっぱり初めての行動なのでスムーズにはいかなかったです…走り出しなので。
あとやっぱり、『約三十の嘘』というのがすごく作りこまれている劇なので、役者の一人ひとりの台詞量が多いんですよ。今までの私たちの劇だと、7,8人を90分で回すのが多かったんですけど、今回は6人で、しかも全く台詞が偏ることなく、120分回すので、セリフ量が多く、稽古には苦労しました。
30分増えるのはやっぱりキツいですか?
キツいですね。一番つらかったところは、前半で、いつもの日常の仕事の話をするところです。詐欺師という慣れない職業の役柄なので、「一体詐欺師ってどういうことをしてるんだろう」「どうしたら自然な会話になるだろう」って詰めていったのが大変でしたね。本番直前もテンポが悪い感じだったので。
でもすごくリアルに感じました。
ありがとうございます。一人一人のキャラクターが立っていたのがあの脚本の魅力なんですよね。わざとらしい演技が上手い方が多くて、すごく助かりました。
今回、照明が凝ってるように感じたのですが。
そうですね。今回の照明はトンネルに入ったところでがーっと鳴ったり、列車とすれ違う時にちかちかしたりなどさせました。
真相が分かるシーンは、照明が普通の色じゃなかったのはどうしてですか?
あそこは劇で一番魅せたい場所だと指定していて、照明さんがそれに応えてくれました。
今回の公演で達成したかったことはなんですか?
公演を通して新しい世代の立芸をスタートさせることが一つです。もう一つは新入生を対象にして、立芸らしい芝居を見せることですね。リアリティを追及した芝居と、あとは会話劇。日常の会話を演出するよう努力しました。
それは達成できましたか?
はい(笑)。演出的には達成できました。
あと今回、音響にもこだわっているんですよ。元々自分は音響効果をやっていて、今回はフルに使おうと思って、「わこんそば」のくだりで、脚本にはない踏切を導入したりしました。列車が止まるときに走行音を消して水蒸気を出す音を入れたりしました。今回の舞台は衣装、照明、音響、全部に力を入れることができたと思います!
立芸の魅力について教えてください。
立芸の公演の魅力は会話劇と具象舞台です。団体としての魅力は、公演を打つ時は活動的に取り組む、それ以外の時ではフレンドリーなところです。外の方からも「立芸仲いいね」と言われるくらい暖かい場所です。
新入生に一言お願いします。
はい。大学生活も始まって、色々と勝手がわからないことはあると思いますが、何か一つ大学で始めようと思っている方は、まず一歩踏み出してください。それは演劇でも他のものでもなんでいいですけど、できれば演劇をやってみてはどうでしょうか(笑)

 次回の立芸の公演は7月10日~12日の三日間の予定です。新入生を迎えた新生立芸を楽しめるのではないでしょうか。興味のある方は是非足を運んでみてください。

※記事の掲載が遅れてしまったことを、謹んでお詫び申し上げます。

取材・文:矢澤達也

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